プリズム 〜2〜







数日後


   「さぁ、朔、急ぐよ〜。どうも、雲行きが怪しいからね。雪になったら大変だ」


   「兄上、すみません。私があの店でどちらにしようかなどと迷ってなどいなければ」


   「ハハハ〜、気にしない気にしない〜。女の子なんだからさ〜。
    服を選ぶのは大切なことだよ〜。もっと悩んだって良かったんだよ〜」


   「でも迷った挙げ句に買わなかった……。結局、時間の無駄になってしまいました」


   「我慢せずに買えば良かったのに。
    迷ってるならお兄ちゃんが両方買ってあげるって言ったでしょ〜」


   「いえ、そのようなもったいないことは。
    もうすぐアパートにも引っ越すのですし、何かと物入りになるのは確かですから。
    ここで服1つにあの値段は出せません」


   「え〜、可愛かったのにな〜。なんなら、明日、お兄ちゃんが買って」


   「いえ、兄上。そのお気持ちだけで朔は十分です。
    それに、あの服はやはり丈が少々短くて、足が出すぎる気がしておりましたので」


   「それが可愛かったのに〜」


   「恥ずかしいような、寒そうなような……。望美のようには、まだいきませんわ」


フフフと笑う妹の姿に、なんだかホッする景時であった。


   「朔ぅ〜、そっちの荷物もお兄ちゃんが持ってあげるから〜」


   「大丈夫ですか? 兄上こそ無理をなさらないでくださいね」


   「うわぉう、大丈夫大丈夫ぅ〜ってね。ほら、見てご覧。
    お兄ちゃんなんて、この2つの荷物を、こう、片手で、ね〜」


   「兄上、落とさないでくださいよ。もう」


そう言って再び微笑む朔は、何かを思いついたように


   「兄上」


   「お、落とさないから、大丈夫だよ〜」


   「そうではありません。その空いた手を」


   「?? 何かな〜」


事情が飲み込めずに、朔に促されて左手を差し出す景時に


   「こうして」


と、朔は手をつなぎ、さらに


   「兄上のコートのポケットの方が大きいかしら」


と言いながらも、つないだ2人の手を自分のコートのポケットに差し入れるのだった。
この突然の朔の行為に景時は


   「さ、朔ぅ〜?」


と、多少ドギマギしながら妹の顔を見ると
そこには屈託無く笑いながら景時を見あげる妹の顔が。


   「少々窮屈かもしれませんが」


   「そ、そんなことないよ〜」


   「でも、残念です」


   「え? な、何がかな〜」


   「兄上の手の方が暖かかったのですね」


   「そ、そうかい〜」


   「望美から教わったのです。
    こうして手をつなぎ、どちらかのポケットに入れて互いの手を温め合うのは
    『仲の良い人にだけする信頼と親切の証』なのだと」


   「そうなんだ〜」


   「『手を暖めてあげたい』『労をいたわりたい』っていう気持ちを示す行為なのだと」


   「さ、朔〜」


   「これから、アパートに越し、店も開店させなければなりません。
    まだまだ苦労なさることが多いと思いますが、兄上お一人で、無理をなさらずに」


   「さ、朔ぅ〜〜」


   「微力ながら私も頑張りますので」


   「さ、さぁくぅ〜〜」


両手のふさがった景時は、懸命に別のことを考えては涙がこぼれないようにするのであった。










11/06/26 UP

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